会社経営をしている中で、現在お付き合いのある顧問税理士に対して、こんな疑問や不安を感じたことはないでしょうか?
「こちらから相談しないと、税理士からの提案がまったくない…」
「質問や相談への返答がいつも遅くて、タイムリーな対応をしてもらえない」
「高齢の税理士なので、今後どのくらいの期間お願いできるのか分からず不安」
こういった声は決して珍しいものではなく、最近ではこのような理由から税理士の変更を検討する経営者の方が増えています。
税理士は単なる「申告の代行者」ではありません
経営者にとって税理士は、税金の計算や申告をしてくれる「代行者」という役割にとどまらず、時には経営戦略におけるアドバイザーとしての顔を持つ、いわば“経営の伴走者”とも言える存在です。
しかし現実には、税理士と長年付き合ってはいるものの、「何となく続けているだけ」「不満はあるけどどうすればいいのか分からない」といった声も多く聞かれます。
特に、代替案や提案がほとんどない、コミュニケーションがスムーズでないといった点は、経営において大きなストレスとなり得ます。
「今の税理士で本当に大丈夫か?」と悩む経営者は少なくない
税理士は原則として長期にわたって付き合うケースが多く、毎月の顧問料も決して安くはありません。
そのため、多少の不満があっても「わざわざ変えるのも手間がかかりそう」「変更したら関係が悪くなりそうで心配」と、現状維持を選んでしまう方も多いのです。
しかし、ビジネスの環境が日々変化していく中で、税理士も常に最新の情報やノウハウを持ち、経営に寄り添ったサポートを提供できることが求められています。
もし今の顧問税理士に対して「物足りなさ」や「不安」を感じているのであれば、それは見直しを検討すべきサインかもしれません。
税理士を変更するのは決して珍しいことではない
「税理士を変えるなんてトラブルのもとでは?」と感じる方もいるかもしれませんが、実際には税理士を変更することは法律的にも何ら問題ありませんし、
現在ではより良いパートナーを探す目的で税理士の変更を行う経営者が増えています。
特に以下のようなケースでは、税理士変更を検討する価値があります。
・事業の拡大や法人化などで、より高度な税務知識や戦略的なサポートが必要になった
・税務調査や資金調達の際、専門的なアドバイスを受けられなかった
・ITツールやクラウド会計に対応しておらず、業務効率が悪いと感じている
【本記事で分かること】税理士変更のポイントを丁寧に解説
本記事では、今の税理士との関係に疑問を感じている方や、将来的な経営のためにパートナーを見直したいと考えている方に向けて、以下の内容を詳しく解説していきます。
・多くの経営者が税理士を変更する主な理由とは?
・税理士を変えるべき「適切なタイミング」とはいつか?
・税理士変更のメリットとデメリットを客観的に整理
・実際に税理士を変更する際の具体的な手続きの流れ
・税理士を変更する際のベストタイミングとは?
・変更で失敗しないための4つのチェックポイント
税理士との関係を見直すことは、企業経営にとって非常に重要な選択肢の一つです。
この記事を通じて、「より良い税理士との出会い方」を知り、経営の質をさらに高めるきっかけになれば幸いです。
目次
経営者が顧問税理士を変更する主な5つの理由
税理士との付き合いは、経営における重要なパートナーシップのひとつです。
しかし、どれだけ長く付き合っている相手であっても、状況やニーズの変化によって「そろそろ変えた方が良いかもしれない」と感じる瞬間が訪れることがあります。
ここでは、実際に多くの経営者が税理士を変更するきっかけとなった代表的な5つの理由をご紹介します。
コミュニケーション不足や対応の遅さに対する不満
顧問税理士とのコミュニケーションに不満を感じている経営者は少なくありません。
特に、今でも連絡手段が電話やFAXのみ、メールの返信が遅い、あるいは緊急時にすぐ連絡がつかないという状況では、業務に支障をきたすことすらあります。
また、税理士と顔を合わせるのは年に1度、決算のときだけという関係性もよく見受けられます。
このような関係は、経営上の重要な意思決定に対してアドバイスを受けられないことに直結し、大きな機会損失につながる可能性があります。
本来であれば、税理士とは1〜2ヶ月に1度のペースで定期的な打ち合わせを行い、日常的な相談もチャットやメールなどで気軽にできる関係性が理想です。
もし「ただ申告書を作ってもらうだけ」「話が通じにくい」といった状況であれば、税理士の変更を検討すべきサインかもしれません。
自社の成長に対して税理士のサービスが追いついていない
会社の規模や事業の内容が変われば、税理士に求める役割も当然変化します。
しかし、顧問税理士がその変化に対応できていない場合、成長の足かせになることもあります。
たとえば、創業時から比べて売上が大きく伸びているにもかかわらず、今もなお決算と申告業務しか行っていない。
あるいは、クラウド会計や経理業務の効率化といった課題に対して、適切な提案やサポートがない。
部門や店舗が増えてきたのに、管理会計の体制づくりを支援してくれない。
こうしたケースでは、明らかに税理士のサービス内容が現状のニーズに追いついていません。
さらに、新規出店や資金調達、IPOを見据えた体制整備など、より高度な対応が必要なフェーズであれば、税理士の専門性や対応力が直接的に事業成長に影響します。
経理担当者が退職した際の業務フォローに応じてもらえないといった事態も、柔軟な体制が整っていない証拠です。
このように、事業のステージが変化したにもかかわらず、従来通りのサポートしか得られていないと感じたら、他の税理士との比較を含めた見直しを行う価値があります。
税理士事務所の体制や担当者が変わった
税理士事務所側の体制変更や担当者交代が、変更を検討するきっかけになることもあります。
それまでの担当者に不満がなくても、新しく担当になった人が経験不足だったり、対応の質が落ちたりすると、今後の付き合いに不安を感じることは十分にあり得ます。
また、規模の小さい事務所では特定の人材に業務が集中しやすく、引き継ぎが不十分なまま担当者が変わってしまうことで、対応力やサービス品質が大きく変わることもあります。
こうしたリスクを避けるためにも、複数名でチーム体制を整え、誰が対応しても一定の品質が担保される体制がある会計事務所を選ぶと安心です。
税理士事務所の内部体制は、なかなか見えにくい部分ではありますが、対応力の安定性や将来的な継続性という観点からも、選定時には重要な要素となります。
節税の提案が受けられない・対応が遅い
節税対策は、企業にとって利益を守るための極めて重要な戦略です。
利益が出ているにもかかわらず、節税対策が不十分で納税額が大きく膨らんでしまうようなことがあれば、それは大きな損失です。
理想的な税理士であれば、決算前に利益の見込みを把握し、税額シミュレーションを基に、早い段階で節税手法を提案してくれます。
たとえば、設備投資のタイミングや役員報酬の見直し、将来の投資計画との兼ね合いなど、長期的視点からのアドバイスがあると経営判断にも大いに役立ちます。
反対に、毎年ギリギリになってから「この金額を納めてください」とだけ言われるような税理士であれば、戦略的に税務を考えているとは言えません。
自社の利益を無駄にしないためにも、経営の視点に立って節税対策を行ってくれる税理士の存在は不可欠です。
税務調査での対応に不安を感じた
税務調査は企業にとって非常に重要な局面です。
調査においては、税理士が企業側の立場に立って、的確な対応と交渉をしてくれることが求められます。
ところが、「税理士が税務署側の意見に同調してしまい、自社を守ってくれなかった」という相談は、実際によく寄せられます。
さらに深刻なケースでは、税理士の記帳や申告のミスによって追徴課税が発生してしまった、という事例もあるのです。
税務調査時に信頼できる対応をしてくれる税理士でなければ、経営者としては不安が募ります。
こうした場面で本来の「味方」でいてくれないと感じた場合には、第三者の意見を求めることも有効です。
他の会計事務所にセカンドオピニオンを依頼するだけでも、自社の現状が見え、適切な判断ができるようになります。
現在の税理士に不安を感じたら
税理士との関係は、経営にとって信頼に基づいた継続的なパートナーシップが理想です。
しかし、会社の成長や外部環境の変化に伴い、その関係も見直しが必要となることがあります。
少しでも「このままでいいのか」と感じたら、一度第三者の意見を聞いてみたり、他の税理士事務所のサービス内容を比較してみたりすることをおすすめします。
「顧問税理士を変える」という選択は、経営の質を一段引き上げる大きなチャンスになるかもしれません。
税理士変更の判断チェックリスト
以下の質問に「はい」が3つ以上当てはまる場合、税理士の変更を前向きに検討するタイミングかもしれません。
【コミュニケーション】
□ 税理士との連絡手段が電話やFAX中心で、返信が遅い
□ 月次や定期的な打ち合わせがない(年に1回しか会わない)
□ チャットやメールなどの柔軟な対応がない
【対応力・専門性】
□ 毎年の申告業務以外の提案がほとんどない
□ クラウド会計や経理の自動化に対応していない
□ 部門別損益や資金調達など、成長戦略に関する提案がない
【税理士事務所の体制】
□ 担当者が頻繁に変わる、または引き継ぎが不十分
□ 1人の税理士に業務が集中していて不安
【節税提案】
□ 決算直前になってからしか納税額の連絡がない
□ 節税についての具体的なアドバイスがない
【税務調査・リスク対応】
□ 税務調査で税理士が会社側の立場で対応してくれなかった
□ 税理士のミスで追徴課税を受けた経験がある
税理士を変更すべきタイミングとは?
企業経営を続けていく中で、「今の税理士で本当に大丈夫だろうか」と感じる場面は誰しも一度はあるのではないでしょうか。
事業は日々変化し、成長とともに求められるサービス内容も複雑化していきます。
ステークホルダー、つまり会社を取り巻く関係者は、ビジネスの規模やフェーズによって適切な人材・専門家へと切り替えていく必要があります。
税理士も例外ではなく、創業からずっと同じ人にお願いしている場合でも、状況によっては見直しが必要なこともあるのです。
経営の現場では日々多くの判断が求められますが、その中で見落とされがちなのが「顧問税理士の見直し」です。
創業からの付き合いで「何となく」関係を続けていたり、不満があっても「誰に相談すればいいか分からない」といった理由で、税理士変更を先延ばしにしている経営者は少なくありません。
しかし、税理士も事業のパートナーである以上、企業の成長や状況の変化に合わせて最適な存在を選び直すことが必要です。
ここでは、実際に多くの経営者が「税理士を変えよう」と決断した代表的なタイミングを5つご紹介します。
会社が大きく成長し、税理士の対応力に限界を感じたとき
創業当初は、取引量も限られており、必要な会計業務もシンプルでした。日々の記帳や決算処理など、最低限の対応ができていれば十分とされていた時期です。
こうした段階では、税理士に対しても「とりあえず申告をきちんとやってくれればいい」という期待値で問題がなかったかもしれません。
しかし、事業が軌道に乗り、売上が拡大し、従業員が増え、複数の拠点や事業部門を抱えるようになってくると、企業経営に求められる視点も変化してきます。
それにともない、税理士に対して求められる役割や対応範囲も、より高度で多岐にわたるものになっていきます。
実際、「創業以来ずっと同じ税理士にお願いしている」「父の代からの付き合いがあるので、なかなか変更しにくい」といった理由で、長年同じ税理士と関係を続けている経営者は少なくありません。
そのような関係は信頼に基づくものであり、もちろん悪いことではありません。
ただし、その信頼関係の中で「何となく今のままでいいだろう」と思い続けていると、知らず知らずのうちに、会社の成長を妨げる要因になっているケースもあります。
たとえば以下のような問題が見られることがあります。
・月次報告もなければ年に1回の決算打ち合わせだけ
・経営状況をリアルタイムに把握できない
・毎年の申告業務だけで、将来に向けた提案や改善提案がない
・税理士が年配で最新の税制やITツールに詳しくない
・会社の成長に税理士の知識や経験が追いついていない
・業績が伸びてきたにもかかわらず、サービス内容は創業時と変わらない
こうした状態は、企業にとって大きな機会損失につながる可能性があります。
とくに、年商が5億円、10億円、20億円と拡大していく成長企業では、節税対策や資金調達戦略、業績管理、経理体制の整備など、経営に深く関わるアドバイスや戦略的な支援が必要になってきます。
たとえば、成長企業では次のようなテーマが次々と発生します。
・節税対策を講じながらも、適正な税務申告体制の構築
・金融機関との関係を強化するための財務分析や決算書の見直し
・新規事業やM&Aに関するスキーム構築のサポート
・グループ会社設立や持株会社(ホールディングス)への移行支援
・IPO(株式公開)を見据えた内部管理体制の整備と運用支援
このような局面で、もし税理士の知識や経験が追いついていなければ、最終的には経営者自身がすべての判断を負担しなければならず、精神的・時間的な負荷が増えるばかりです。
場合によっては、重大な意思決定を誤るリスクや、多額の税金を余計に支払ってしまうことも考えられます。
一方で、成長企業向けの支援に慣れた税理士であれば、日常の会計業務の効率化(たとえばクラウド会計の導入)から、将来的な組織再編・経営戦略まで、幅広く・積極的に関与してくれるはずです。
顧問税理士が、経営者にとって「相談しやすい相手」であると同時に、「的確なアドバイスをくれる存在」でなければ、信頼の上に築かれた関係とは言えません。
成長企業にふさわしい税理士であれば、クラウド会計や経理効率化といった日常業務の改善から、経営戦略を見据えた提案まで、能動的にサポートしてくれるはずです。
「最近、こちらから質問しないと何も言ってこない」「企業の成長スピードに、税理士の対応が追いついていない」と感じたときこそが、顧問関係を見直す絶好のタイミングと言えるでしょう。
クラウド会計に移行したいのに対応してもらえないとき
近年、freeeやマネーフォワードといったクラウド会計ソフトの普及により、中小企業の経理業務に大きな変化が起こっています。従来は紙ベースやExcelでの管理、あるいはデスクトップ型の会計ソフトを使った煩雑な処理が主流でしたが、現在ではリアルタイムでの経営数値の把握や業務の自動化が誰でも実現できる時代になりました。
こうした背景の中、「クラウド会計を導入して業務を効率化したい」と考える経営者は年々増加しています。経理の手間を減らし、経営判断に必要な情報を即座に把握できる体制を整えることは、企業の成長スピードを上げるための重要な手段となりつつあります。
しかし現実には、現在の顧問税理士がクラウドツールに否定的だったり、既存の古い会計ソフトに固執しているために、導入を断念せざるを得ないケースも少なくありません。
よくある問題点としては、以下のようなものがあります。
・弥生会計などのデスクトップ型ソフトしか対応できない
・freeeやマネーフォワードなどのクラウドツールに非対応
・クラウド会計の導入・運用に関する実践的な知識や支援実績が乏しい
こうした状況では、社内でせっかくクラウド化の必要性を感じていても、前に進めないまま時間と労力を無駄にしてしまうことになります。
そしてその間にも、経理部門では煩雑な手作業が続き、担当者の業務負荷が高まり、経営者も数字の把握が遅れて的確な意思決定ができなくなるなど、さまざまな悪影響が生じてしまいます。
一方、クラウド会計に精通した税理士に変更することで状況は一変します。
新しい税理士であれば、クラウド導入の初期段階から以下のような具体的な支援を提供してくれます。
・現在の経理業務の棚卸しと業務フローの可視化
・クラウドソフト選定のアドバイス(freee、マネーフォワードなど)
・初期設定・データ移行・操作説明などの導入支援
・導入後の運用サポート・改善提案
実際、税理士の変更をご検討されている企業の中には、税理士を切り替えたことでクラウド化が大きく進展し、月次決算をスピーディーに完了できる体制を構築したという成功事例もあります。
これにより、試算表が迅速に確認でき、「数字に基づく経営判断」が格段にしやすくなったという評価をいただいています。
このように、クラウド会計は単なる「便利な会計ソフト」ではなく、会社の意思決定スピードや業務効率を高め、経営そのものを強くするインフラです。
限られた人材・時間・資源を最大限に活かすためにも、ITツールに前向きで実務にも精通している税理士をパートナーに選ぶことは、今後の事業成長に直結する重要な経営判断といえるでしょう。
経理業務の一部をアウトソーシングしたいとき
経理部門の人手不足は、現在多くの中小企業が直面している深刻な課題です。
特に、従業員数が限られている企業では、経営者自身が経理業務を兼任しているケースも少なくありません。
そのような状況では、「本来注力すべき経営判断や営業活動に時間を割けない」「細かい会計処理に追われてストレスが溜まっている」といった問題が生じがちです。
こうした課題を解決する手段として、近年注目されているのが税理士事務所を活用した経理業務の部分的なアウトソーシングです。
記帳代行、給与計算、支払い管理、請求書の発行など、ルーチン業務を外部に委託することで、社内の負担を大幅に軽減できます。
たとえば、ある企業では税理士事務所に経理代行を依頼したことで、年間約120万円のコスト削減に成功しました。
これは、20代の若手経理スタッフを人材紹介会社経由で採用し、社内で教育するのにかかる費用と比較したものです。
採用活動や教育にかかる時間・手間も不要となり、結果的に業務の安定性も確保できたという声が上がっています。
また、アウトソーシングのもうひとつの利点は、専門的な知識を持ったプロによる正確で効率的な対応が受けられる点です。
ミスのリスクが減り、税務調査などの際にも安心して対応できます。
人手不足が慢性化している現在、優秀な経理人材を新たに採用することは非常に難しくなっています。
そうした中で、必要な業務だけを外注し、コア業務に集中できる体制を整えることは、企業の持続的な成長にもつながります。
アウトソーシングは、単なる「コスト削減」ではなく、経営の質を高める戦略の一つとして、ぜひ検討してみてください。
税務と労務などを一元化して依頼したいとき
企業を経営していく中では、税務対応だけでなく、労務管理に関する課題にも日常的に直面します。
たとえば、従業員の労働時間の管理、社会保険の手続き、労働条件の見直し、就業規則の作成・変更、さらには助成金の申請など、対応すべき項目は多岐にわたります。
これらは税理士だけではカバーしきれない分野であり、社会保険労務士(社労士)の専門性が求められる場面です。
そのため、税理士と社労士をそれぞれ別に契約している企業も多いですが、担当者とのやりとりや情報の行き違い、連絡の手間がかかるという問題も発生しがちです。
こうした煩雑さを解消する手段として注目されているのが、「税理士法人」と「社会保険労務士法人」が同一グループ内に存在するワンストップ型の会計事務所です。
ひとつの窓口で税務と労務の両方を一括して相談できるため、業務連携がスムーズになり、社内の調整や情報共有にかかる手間と時間を大きく削減することができます。
実際に、顧問税理士を変更したことをきっかけに、労務管理についても社労士法人にまとめて依頼した企業では、給与計算や労務手続きの正確性が向上し、社内担当者が他の業務により集中できるようになったという事例もあります。
さらに、同じグループ内で連携して対応してくれるため、法改正への迅速な対応や、助成金・補助金の申請サポートなどもワンストップで行いやすくなります。
このように、税務・労務の相談先を一元化することで、業務の効率化だけでなく、社内体制の安定や生産性向上にもつながります。
特に、従業員数が増えて労務管理の複雑さが増してきた企業にとっては、非常に実用的で価値の高い選択肢となるでしょう。
事業承継や相続対策が必要になったとき
経営者が60代、70代と年齢を重ねるにつれて、これまで築いてきた会社を「誰に、どのように託すのか」という事業承継や、個人の資産を家族にどのように引き継ぐかという相続の問題が、現実的な課題として浮上してきます。
これらのテーマは感情的な問題も伴うため、準備が後回しになりがちですが、実は早めの対応が極めて重要です。
しかしながら、「顧問税理士から事業承継や相続に関する提案がほとんどない」「いざ相談してみたが、納得のいくアドバイスがもらえなかった」という声も少なくありません。
これは、税理士といっても全員が事業承継や相続の専門家というわけではなく、その分野での経験や対応実績に大きな差があるためです。
実際に、一般的な税理士が担当する法人顧問先の中で事業承継の局面に入っている企業は一部に限られており、多くても数件、多くの場合は1〜2件程度の経験しかないということも珍しくありません。
そのため、複雑な株式の承継や資産分割、節税を考慮した承継スキームの設計といった、より高度なサポートを求めるには限界があります。
一方で、事業承継や相続に特化した専門部署を持つ会計事務所では、年間100件を超える実務対応を行っており、法律・税務・経営の観点から包括的な支援を行うことが可能です。
実務で培った豊富なノウハウに基づき、企業の状況や家族構成に応じて、最適な承継方法を提案してくれる点が大きな強みです。
たとえば、「ホールディングカンパニーを設立し、自社株をスムーズに後継者に移転することで、経営権と資産を分けて承継する」あるいは「生前贈与や信託を活用して、相続税負担を最小限に抑えながら家族の将来設計も考慮する」といった具体的な対策が検討できます。
これらは一朝一夕で対応できるものではなく、数年単位の準備が必要になることもあります。
そのため、事業承継や相続の必要性を感じ始めたタイミングで、早めに実績豊富な税理士や専門チームへ切り替えることが、将来のトラブルを未然に防ぎ、経営者自身とご家族の安心につながる大きな一歩となります。
税理士の見直しは、経営の見直しでもある
税理士の変更は、単なる人の入れ替えではなく、「経営体制を最適化する」ための重要な決断です。
以下のような項目にひとつでも当てはまるなら、それは税理士見直しのサインかもしれません。
・会社の成長スピードに税理士の対応が追いついていない
・IT化やクラウド導入に消極的
・提案がなく、すべて受け身の対応
・経理業務が経営の妨げになっている
・事業承継・相続に不安がある
税理士は「長く付き合うもの」だからこそ、慎重に選びたい存在です。
しかし、今の体制に疑問を感じているなら、一度専門家や他の会計事務所に相談してみることをおすすめします。
よりよい経営環境を整える第一歩になるかもしれません。
税理士を変更するメリット
ここまでお読みいただいたとおり、現在の税理士に対する不満や課題は、決して珍しいものではありません。
そして、その多くは「税理士を変更する」ことで解消できる可能性があります。
税理士との関係は、単なる申告代行にとどまらず、経営の質やスピードを左右する重要なパートナーシップです。
ここでは、税理士を変更することで得られる代表的なメリットを3つ、わかりやすくご紹介します。
積極的な提案がもらえるようになり、経営判断が加速する
現在の税理士が「言われたことだけをやるスタンス」「提案がほとんどない」「最新情報に疎い」と感じているなら、変更によって得られるメリットは非常に大きいでしょう。
新たに自社の課題に合った税理士と契約すれば、会計や税務の知識に加え、事業戦略や資金繰り、節税、補助金、クラウド会計導入など、多方面からの能動的な提案が得られるようになります。
たとえば、資金調達に強い税理士であれば「この補助金制度が利用できますよ」「この決算書の見せ方なら銀行評価が上がります」といった具体的なアドバイスをしてくれるようになります。
さらに、税制改正や新たな制度などの情報も、タイムリーに受け取れるようになるため、経営判断のスピードと精度が格段に向上します。
情報収集をすべて自分で行うのは限界がありますが、専門家のネットワークと知見を活用すれば、自社だけでは得られない知識や選択肢も広がるはずです。
試算表が早く手に入り、数字に基づいた意思決定ができるようになる
税理士事務所によって、月次試算表の提出スピードには大きな差があります。
「毎月の試算表が来るのは翌月末以降」「2か月遅れて届く」という状況では、正確な経営判断を下すのが難しくなります。
もし、現在の顧問税理士が試算表の提出に30日以上かかっているようであれば、それは業務改善のサインかもしれません。
月次の試算表を10日〜15日以内に出してくれるような事務所に変更すれば、リアルタイムに近いかたちで会社の数字を把握できるようになります。
たとえば、以下のようなことが可能になります。
・売上や利益の変動要因を迅速に分析できる
・資金繰りや利益着地の予測をタイムリーに把握できる
・「このタイミングでどれくらい投資できるか?」といった判断が即時に行える
こうした数字に基づいた意思決定が可能となり、経営スピードと精度の両面で大きな効果をもたらします。
さらに、銀行や金融機関への融資交渉も、数字を武器にスピーディーに進められるようになるため、経営基盤の安定にもつながります。
経理の業務効率が飛躍的に向上する
税理士を変更するもう一つの大きなメリットが、経理業務の効率化・省力化です。
経理改善やバックオフィス支援に強い税理士事務所に依頼すれば、自社の業務フローを見直し、より効率的な体制へと導いてくれる可能性があります。
たとえば以下のような改善が期待できます。
・クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)の導入支援
・インターネットバンキングと会計ソフトの連携による自動記帳化
・経理のアウトソーシング活用による作業時間の削減
・請求書・領収書の電子化対応による管理コストの削減
たとえば、これまで経理担当者が銀行へ通帳記帳に行き、手入力していた作業が、ネットバンキングの自動連携により入力不要になります。
その分、担当者は売上分析やキャッシュフローの可視化といった「経営に活かす数字作り」に集中することができるようになります。
また、経理担当者を新たに雇用するのではなく、一部業務を税理士事務所にアウトソースすることで、コスト削減と品質向上の両立を図ることも可能です。
限られたリソースで最大の成果を出すために、経理の効率化は極めて重要なポイントとなります。
税理士変更には様々なメリットがある
税理士を変更するという選択は、単なる契約の切り替えではなく、経営体制を見直す絶好の機会でもあります。
「もっと良い提案が欲しい」「数字を早く見たい」「経理の負担を減らしたい」——こうした想いを抱えているのであれば、それはすでに見直しのタイミングかもしれません。
現状の不満や課題をしっかりと認識し、自社の成長ステージや課題に合った税理士と出会うことで、経営の質を一段と高めることができるはずです。
税理士変更は、「経営の未来を切り開くための第一歩」として、ぜひ前向きにご検討ください。
税理士を変更するデメリット
税理士を変更することで得られるメリットは多くありますが、一方でデメリットや注意すべき点も存在します。
事前にそれらをしっかり理解し、対策を講じておくことで、税理士変更をスムーズかつ効果的に進めることができます。
ここでは、税理士を変更する際に代表的なデメリットと、その対処法を3つの視点からご紹介します。
自社で税理士を探す場合、情報収集や手続きに時間と手間がかかる
税理士変更における最初のハードルが、「新しい税理士をどうやって探すか」です。税理士の数は全国に7万人以上いると言われており、その中から自社に最適な1名(または1事務所)を見つけ出すのは簡単ではありません。
もし自力でインターネットや知人の紹介を頼りに税理士を探そうとすると、次のような課題が出てきます。
・候補が多すぎて、どの基準で選んだらよいかわからない
・各事務所の得意分野や対応力が見えにくく、比較しづらい
・複数の税理士と面談するための時間や調整が負担になる
・現在の税理士からの引き継ぎや契約解除の進め方が不明
こうした手間や不安が原因で、税理士の変更自体を躊躇してしまう経営者も少なくありません。
そこでおすすめしたいのが、税理士業界に詳しい紹介会社や専門のコンサルタントを活用することです。
企業の経営課題や成長ステージをヒアリングしたうえで、数多くの会計事務所の中から最適なパートナー候補を提案してくれます。
ただし、ここで注意が必要なのは、「どの紹介会社を選ぶか」です。中には「とにかく顧問料が安い税理士」を紹介することを重視する業者もあります。
しかし、それでは企業の今後の成長に必要なサービスレベルを担保できない場合があります。
たとえば、船井総合研究所では、全国で400以上の会計事務所をコンサルティングしており、その中から成長支援に強い、信頼性の高い事務所を紹介することが可能です。
「経理代行を外部に任せたい」「税務と労務をワンストップで依頼したい」「クラウド会計に対応できる事務所を探している」といった多様なニーズにも柔軟に対応してくれるため、業務効率の向上や管理コストの最適化にもつながります。
税理士の変更にはたしかに手間がかかる一面もありますが、正しい情報と専門的なサポートがあれば、大きな負担をかけずに最適なパートナーを見つけることができるのです。
顧問料が上がる可能性がある
現在の税理士と比較して、新たに契約する税理士の顧問料が上がる場合があります。
特に、今まで低料金で最低限の申告業務のみを依頼していた場合には、月次顧問契約に移行したり、サービスの質を高めると、費用が1.5倍~2倍程度に増えるケースも珍しくありません。
この点をデメリットと捉える方もいますが、見方を変えれば「価格に見合ったサービスを受けられるようになる」という前向きな意味も含んでいます。
安価な顧問契約では、以下のような制限がある場合が多いです。
・試算表や月次報告の提出が遅い
・節税提案や融資支援などのアドバイスが受けられない
・担当者が税理士ではなく、経験の浅いスタッフの場合がある
・経理改善やクラウド導入などの追加サービスは一切対応していない
つまり、「安いから」と継続している顧問契約が、実は企業の成長や効率化を阻害していることもあるのです。
これに対し、顧問料はやや高くなるものの、経営の本質的な課題に対して積極的に関与し、適切な改善提案を行ってくれる税理士に変更すれば、結果的に利益が残りやすくなり、企業価値の向上にもつながります。
顧問料の増額は、単なる支出ではなく、「投資」として考えるべきです。経営の安定と将来的な成長を見据えて、「コストではなく、価値」を基準に税理士を選ぶことが重要です。
引き継ぎミスや情報の漏れが発生するリスクがある
税理士を変更する際に最も注意が必要なのが、業務やデータの引き継ぎに関するトラブルです。
長年お付き合いのある税理士であれば、社内の会計処理の癖や経営者の方針、過去の申告内容や節税対策の履歴など、言葉にしづらい“暗黙知”まで理解している場合が多くあります。
新しい税理士に変更した際、こうした情報がうまく引き継がれないと、次のような問題が発生する可能性があります。
・過去の決算書の読み違いや、前提条件の誤認
・節税や会計処理の継続方針が途中でぶれる
・税務署との対応履歴が不明確になる
・今まで活用していた特例や制度が引き継がれず、損をすることも
特に注意すべきなのは、前任の税理士が引き継ぎに協力的でない場合です。
「もう契約が切れたから関係ない」と最低限の資料しか引き渡されないケースでは、新しい税理士もスムーズに業務を進められず、初期対応に時間がかかることがあります。
こうしたリスクを避けるためには、事前に引き継ぎスケジュールと必要資料のリストを作成し、段取りよく進めることが大切です。
また、引き継ぎ時には、新旧の税理士間で直接やりとりを行ってもらえるようお願いするのも有効です。
税理士の変更は、慎重に行えばスムーズに移行できますが、引き継ぎの失敗は経営上のリスクとなる可能性もあるため、「情報の橋渡し」を怠らないことが重要なポイントです。
デメリットを正しく理解し、最善の選択を
税理士変更には、たしかに「探す手間」「費用増加」といったデメリットも存在します。
しかし、それらはあくまで“一時的な負担”に過ぎません。しっかりと目的を明確にし、信頼できる紹介先や専門家のサポートを受けながら進めれば、その負担を最小限に抑えることができます。
むしろ、今の税理士に対して「物足りない」「対応が遅い」「提案がない」といった不満がある場合、そのまま放置する方がリスクです。
事業環境が急激に変化している今こそ、自社のステージにふさわしい専門家とのパートナーシップを築くことが、企業の持続的な発展にとって極めて重要です。
「デメリットもあるが、それを上回るメリットがある」それが、税理士変更における本質です。
税理士変更の流れと必要な手続き
税理士の変更は、会社にとって重要な決断です。スムーズに切り替えを行うためには、事前の準備や段取りが非常に重要です。
必要な手続きや流れを知らずに変更を進めてしまうと、業務に支障が出たり、書類の引き継ぎがうまくいかないといったトラブルが発生する恐れもあります。
ここでは、顧問税理士を変更する際に必要な4つのステップを、順を追ってわかりやすく解説します。
現在の顧問税理士との契約内容を確認する
税理士を変更する際、まず最初に行うべき重要なステップが、現在の税理士との顧問契約内容をしっかり確認することです。
長年付き合いがある場合、契約書を交わした当時の内容を忘れていたり、そもそも書面での契約が存在しないケースもあります。
しかし、トラブルを未然に防ぐためには、口頭のやりとりだけでなく、契約の書面化・内容確認を丁寧に行うことが大切です。
特に以下の点について、契約書や過去のやりとりをもとに確認しておきましょう。
・契約の種類と範囲(月次顧問契約/決算のみのスポット契約など)
・解約の通知期限(例:「契約終了の30日前までに通知」など)
・解約可能なタイミング(月末、決算月、年間契約終了時など)
・違約金の有無や条件(途中解約で料金が発生する可能性)
・契約自動更新の有無(黙示で継続している契約の取り扱い)
これらを確認せずに一方的に解約を進めてしまうと、「契約違反によるトラブル」「解約金の請求」などの問題に発展する可能性もあります。
また、契約に明確な規定がない場合でも、税理士倫理規定や業界慣習に基づいて適切な解約手順を踏むことが望ましいです。
たとえば、申告や決算作業中にいきなり契約を打ち切ると、業務の引き継ぎが中断されてしまい、自社の会計や税務業務にも支障をきたします。
そうしたリスクを避けるためにも、「いつ、どの業務までをお願いして、それ以降を新しい税理士に任せるのか」という区切りを明確にしておくことが大切です。
このように、契約内容の確認は単なる形式ではなく、円満かつ確実な税理士変更を実現するための第一歩です。
現契約の把握なしに次のステップに進むのは危険ですので、焦らず丁寧に確認作業を行いましょう。
新しい税理士を探す
契約内容を確認し、税理士の変更が可能であることがわかったら、次のステップとして新しい税理士の選定に進みましょう。
※状況に応じ「現在の顧問税理士との契約内容を確認する」よりも前に確認しましょう。
税理士は単なる税務処理の代行者ではなく、会社の財務面を長期的に支える経営パートナーです。
そのため、変更後に後悔しないよう、自社に最適な税理士を慎重に選ぶことが重要です。
税理士にも得意分野やサービスの特徴があり、以下のような観点から検討を進めるとよいでしょう。
・税理士事務所や会計事務所の規模がマッチしているか
・クラウド会計への対応実績があるか
・業種や会社規模に関する知見や支援実績があるか
・節税、資金調達、経理改善などの提案を積極的に行ってくれるか
・労務や経理代行など、周辺業務も含めたワンストップ対応が可能か
・コミュニケーションのしやすさ、レスポンスの早さはどうか
自力で探すのが難しいと感じる場合は、税理士紹介会社や士業専門のコンサルティング会社を活用するのも有効です。
例えば、全国の優良会計事務所と連携している紹介サービスを利用すれば、自社のニーズに合致した税理士を複数候補として提示してもらうことができます。
特に、「クラウド会計を導入したい」「経理体制を見直したい」「労務も含めて相談したい」といった具体的な要望がある場合は、そうした分野に強い税理士を見つけることで、単なる“交代”にとどまらない業務改善のきっかけにもなります。
新しい税理士の目星がついてから、現在の税理士に解約の申し出を行うことで、業務の空白期間ができるリスクを防ぎ、スムーズに移行することができます。
自社の課題や成長戦略に合った税理士を複数名候補としてリストアップし、面談や相談を経て選定します。紹介会社や信頼できる他社経営者からの推薦も有効です。
現在の税理士に解約希望を伝える
契約内容の確認が済み、解約が可能なタイミングであることを確認したら、いよいよ現在の顧問税理士に対して、解約の意思を伝える段階に入ります。
このステップは非常にデリケートであり、対応の仕方によっては引き継ぎがスムーズにいかなくなるリスクもあるため、特に注意が必要です。
税理士との関係は、長ければ数年から十数年に及ぶこともあり、ビジネスパートナーとして信頼関係を築いている場合がほとんどです。
そのため、突然の通告や一方的な態度は避け、誠実で礼儀正しい伝え方を心がけましょう。
たとえば、次のような流れで伝えるとスムーズです。
・まずは日頃の感謝を伝える(「これまでお世話になり、本当にありがとうございました」)
・解約の理由は、責任を税理士に押し付けず、あくまで会社の方針や成長に伴う判断として説明(「事業のフェーズが変わり、経理体制の見直しを行うことになりました」など)
・解約希望日と、どの業務までをお願いしたいかを具体的に伝える
・引き継ぎや書類返却の協力を丁寧に依頼する
また、税理士事務所によっては、解約通知を一定期間前に書面で行うことを求めているケースもあります。
たとえ口頭で話が済んでいたとしても、後からの行き違いやトラブルを防ぐために、書面での通知を行うことを強くおすすめします。
書面には以下のような内容を記載しておくとよいでしょう。
・顧問契約の解除を希望する旨
・解約希望日と、それまでにお願いする業務の範囲
・書類やデータの返却についての依頼
・必要に応じて感謝の言葉や今後の連携についての記載
なお、税理士との関係が悪化してしまうと、必要な書類を返してもらえなかったり、引き継ぎに非協力的になるケースもあります。
こうした事態を避けるためにも、冷静かつ丁寧な対応が肝心です。
もし、「どのように切り出せばよいかわからない」「相手に気を悪くさせたくない」といった不安がある場合は、税理士紹介会社や第三者の専門家に相談するのもひとつの方法です。
間に立ってフォローしてくれるため、負担を大きく軽減できます。
決算書や仕訳帳などの必要書類を回収する
現在の税理士に解約の意思を伝え、円満に承諾を得られたら、次に重要になるのが必要な書類やデータの返却・受け取りです。
税理士が業務を行う中で、会社から預かっている各種書類や会計データは非常に多岐にわたります。
これらをもれなく確実に返却してもらうことが、新しい税理士へのスムーズな引き継ぎにつながります。
まず、返却を依頼すべき主な書類やデータは以下のとおりです。
・決算書一式(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書など)
・総勘定元帳、補助元帳
・試算表、月次推移表
・仕訳帳、会計仕訳データ(ExcelやCSV形式、会計ソフト形式など)
・給与関連書類(給与台帳、年末調整書類、源泉徴収票など)
・税務申告書類(法人税、消費税、地方税など各種申告書控え)
・税務調査関連書類(過去の対応履歴、指摘内容、修正申告内容など)
・証憑類(請求書、領収書、契約書等の写し)
・電子データ(会計ソフトのID/パスワード、電子申告データなど)
これらの書類は、直近の会計年度のものだけでなく、過去3~5年分は確保しておくのが理想的です。
税務調査の対象は通常3年~5年とされており、過去のデータが手元にないと調査対応や融資審査に支障が出ることがあります。
また、クラウド会計ソフトを利用している場合は、管理権限の移譲やユーザーの切り替え設定も忘れずに行いましょう。
旧税理士がアカウント管理者になっていると、新しい税理士が作業できなかったり、データが不完全なまま引き継がれる恐れがあります。
さらに、返却された書類はただ受け取るだけでなく、内容を確認して不備がないかチェックすることも大切です。
万が一不足している資料があれば、その場で再度依頼できるよう、リストを作成して確認作業を行いましょう。
必要であれば、新しい税理士と連携しながら、旧税理士に提出依頼をする文面やチェックリストを作成するのも効果的です。
このステップをおろそかにすると、後から重要な資料がないことに気づき、税務申告や会計処理に支障が出ることもあります。
引き継ぎの要である「書類の整理と回収」は、必ず慎重に丁寧に行うようにしましょう。
業務終了日と新税理士との契約や引き継ぎ
税理士変更において最後の大切なステップが、現在の税理士の業務終了日と、新しい税理士の業務開始日をうまく調整することです。
この調整がうまくいかないと、経理業務が一時的にストップしたり、税務処理に抜け漏れが出たりといったリスクが生じます。
特に、月次処理や決算、申告などのタイミングと重なると、混乱が大きくなるため、計画的に進めることが重要です。
まず前提として、新しい税理士を探す際には、業務の引き継ぎに必要な時間を含めて余裕を持ったスケジュールを組むようにしましょう。
すぐに交代できると思いがちですが、税理士にも繁忙期があるため、面談→契約→初期対応までに数週間~1か月以上かかる場合があります。
以下のような点に注意して、日程を調整しましょう。
・決算や申告の時期は避けるのがベスト
(直前での変更は引き継ぎミスや対応遅れの原因になります)
・旧税理士と新税理士の契約期間が「重なる時期」を設けると安心
(1~2か月の並走期間をつくることで、不測の事態にも柔軟に対応可能)
・引き継ぎ会議を設けると、業務の内容や背景を正確に伝えられる
(旧税理士が協力的な場合には、3者で打ち合わせするのも有効です)
また、心配な場合は、新しい税理士に早めに依頼を開始し、初月から引き継ぎを含めた支援をしてもらうという方法もあります。
たとえ一時的に費用が二重になるとしても、会社の数字や申告が正確に行われることを優先すれば、十分に費用対効果はあるでしょう。
このように、スムーズな切り替えを実現するには、「いつ誰が何を担当するか」「どの時点で正式に交代するか」を、事前に明確にしておくことがポイントです。
できれば、業務終了と開始のタイミングを「書面(業務分担表など)」にして双方で確認しておくと安心です。
税理士変更は一度きりの大きな判断ですが、このタイミングを活かして経理体制や会計業務全体を見直す良い機会でもあります。
新しい税理士との関係を良好にスタートさせるためにも、切り替えのタイミングと準備はしっかり行いましょう。
顧問税理士を変更する際のベストタイミングとは?
税理士の変更は、経営環境の変化や不満の蓄積、体制強化の必要性など、さまざまな理由から検討されます。
しかし、変更のタイミングを誤ると、業務に支障が出たり、引き継ぎが煩雑になったりと、かえって負担が増えてしまうこともあります。
そこで「手続きがスムーズで、実務に支障をきたしにくいタイミング」に着目し、税理士を変更するうえで最適な4つの時期をご紹介します。
法人税申告書の提出直後|業務が一区切りつく絶好のタイミング
法人の場合、決算終了後に法人税の確定申告を行い、法人税申告書を提出します。
この「申告書の提出直後」は、税理士業務における一区切りがつくタイミングであり、次年度の税務業務との切れ目が明確になる最良の時期といえます。
通常、法人税の申告期限は、事業年度終了日から2ヶ月以内です。
たとえば3月決算の企業であれば、申告期限は5月末。よって、6月以降が税理士変更に適した時期になります。
この時期に変更を行えば、前年度の税務処理がすべて完了しているため、引き継ぎがシンプルになります。
また、新しい税理士とともに次年度の経営方針や税務戦略を立て直すことも可能です。
さらに、導入支援やクラウド会計の初期設定など、比較的時間をかけて体制構築ができる点もメリットです。
変更の準備としては、決算2~3ヶ月前から新しい税理士探しを始めておくと理想的です。
面談や業務のすり合わせ、契約準備などを経て、申告後すぐにスムーズな移行が可能になります。
税務調査が終了したタイミング|責任区分を明確にしやすい
税務調査が行われた後も、税理士変更のタイミングとして適しています。
調査の結果報告書が提出され、必要であれば修正申告を終えた段階であれば、業務の区切りがついており、次の税理士に安心してバトンを渡すことができます。
税務調査の対応中に税理士を変更するのは避けた方がよいですが、調査終了後であれば話は別です。
旧税理士は過去の処理についての対応を全うし、新税理士は調査後の新しい方針のもと、再構築や再発防止策の立案に集中できます。
税務調査は主に7月~12月に集中して実施される傾向があります。
調査の内容にもよりますが、一連の対応が完了した直後は、業務の引き継ぎとともに信頼関係のリセットもしやすく、心理的な切り替えもしやすいという利点もあります。
また、税務調査を経験することで、現状の税理士に対する不満や不安が浮き彫りになるケースも多いため、「ここが限界だ」と判断したタイミングで前向きな変更を検討することが可能です。
経営戦略の転換時・成長フェーズに差しかかる時期|より専門性の高い支援を求めるなら
税理士の変更は「不満があるとき」だけでなく、経営が新たな段階に入ったとき=“攻め”のフェーズでも検討すべきタイミングです。
たとえば、
・売上が急激に伸びている
・多店舗展開や新規事業を検討している
・M&AやIPOを検討している
・子会社やグループ会社設立などを視野に入れている
・経理の内製化やクラウド会計の導入を検討している
といったケースでは、従来の「記帳代行中心」の税理士では対応が難しくなることも少なくありません。
こうした変化に対応するには、財務戦略・資金繰り・税務リスクのマネジメントまでを見据えてサポートできる、
専門性の高い税理士への切り替えが必要です。
事業フェーズに合った税理士と組むことで、スピード感のある意思決定や、投資判断の精度が格段に上がります。
このような戦略転換の局面では、「税理士が経営にどれだけ関与してくれるか」が重要になります。
事業規模にふさわしい知見と提案力を持つ税理士に切り替えることで、会社の成長力をさらに引き出すことができるでしょう。
決算の3ヶ月前以降は、原則として避けるべきタイミング
税理士の変更に最も適さないタイミングは、決算の3ヶ月前以降から、申告が終わるまでの時期です。
この時期は、1年の集大成である決算書の作成や納税額の計算が行われる非常に重要な局面です。
新しい税理士がこのタイミングで業務を引き継いでも、以下のような問題が起こりやすくなります。
・1年間の会計処理の全容を短期間で把握するのが難しい
・決算処理の方針や過去の取引内容に関する情報が不十分
・結果としてミスや判断ミスが発生するリスクが高まる
そのため、業務の質を落とさないためにも、決算が近づいている時期の税理士変更は原則として避けるべきです。
申告が終わるまでは現行の税理士に対応してもらい、申告後の切り替えを目指しましょう。
ただし、「現税理士が対応できない」「申告に重大な不備があった」など緊急性の高い理由がある場合は、新しい税理士をすぐに立ててサポートを受ける必要があるため、例外的に変更を検討すべきです。
タイミングを見極めれば、税理士変更はむしろ業務改善のチャンス
税理士の変更は、会社の財務体制や税務の方向性を再設計する良い機会です。
しかし、変更のタイミングを誤ると、思わぬ混乱やリスクを招く恐れがあります。
ここでご紹介したように、スムーズな切り替えを実現するには以下のようなタイミングを意識することが重要です。
・法人税申告書の提出直後
・税務調査の完了直後
・経営戦略の転換・成長フェーズ
・(原則避ける)決算3ヶ月前以降の期間
今すぐの変更を予定していなくても、将来に備えて「信頼できる税理士候補」を早めにリストアップしておくことは、トラブル時の備えにもなります。
税理士は経営者の重要な右腕。適切なタイミングで、より良いパートナーを選ぶことが、会社の成長につながる第一歩となるでしょう。
税理士変更で失敗しないための4つのポイント
税理士の変更は、企業にとって大きな決断の一つです。日々の記帳や税務申告といった実務的な支援に加えて、税理士は経営の相談役として中長期的に関わる存在でもあります。
にもかかわらず、「何となく合わない」「提案が少ない」「対応が遅い」といった不満を抱えながら、我慢して今の税理士と付き合い続けている企業も少なくありません。
しかし、時代の変化や企業の成長に合わせて、より自社に合った税理士へと切り替えることは、経営改善や事業拡大のチャンスにもつながります。
その一方で、勢いだけで税理士を変えてしまうと、かえって業務が混乱したり、再びミスマッチが起きてしまう可能性もあるのです。
税理士を変更する際、「なんとなく」で決めてしまうと、思わぬミスマッチや業務の混乱を招く可能性があります。
税理士は単なる申告代行者ではなく、経営の相談役として長期的に関わっていく存在です。
ここでは、税理士変更で失敗しないために押さえておきたい4つのポイントをご紹介します。
自社の経営課題・成長速度にマッチした税理士を選ぶ
「近所だから」「知人の紹介だから」といった理由だけで税理士を選んでいませんか?
税理士にもそれぞれ得意分野や専門業種があり、企業のフェーズや課題に応じて、適したパートナーは異なります。
そのため、誰かにとって良い税理士が、必ずしも自社にとって最良の存在とは限りません。
たとえば、急成長している企業であれば、月次での経営数字の可視化や、資金繰り・節税対策、クラウド会計への移行支援などが重要になります。
一方、成熟企業では、事業承継や組織再編、相続対策といった中長期的な視点を持つ税理士が求められます。
このように、税理士に期待する役割は、会社の規模や業種、成長段階によって変化するものです。
だからこそ、自社の経営課題や事業の方向性を事前に明確にしておくことが欠かせません。
そのためには、まず「今、自社が何に困っていて、どんな支援を求めているのか」を社内で共有・整理した上で、複数の会計事務所のサービス内容を比較・検討することをおすすめします。
可能であれば、初回面談の際に「これまでどんな業種や規模の企業を担当してきたか」「どのような支援が得意か」などを具体的に確認しておくと、より判断がしやすくなります。
税理士は、企業の財務を預かる重要なパートナーです。
相性や信頼感はもちろんのこと、「今の自社に合った専門性や支援内容があるかどうか」を軸に検討を進めることが、失敗しない第一歩となります。
理想とする経理体制・サポート内容を事前に明確にしておく
税理士を変更するタイミングは、自社の経理体制を見直す絶好の機会でもあります。
これまでのやり方を踏襲するだけでなく、今後の経理業務をどのような体制で運営していきたいのか、理想とする業務フローや外部委託の範囲を明確にしておくことが大切です。
たとえば、「経理担当者が退職してしまい、記帳や請求書処理をアウトソーシングしたい」「経営者自身が経理を兼任しているが、本業に集中するために部分的に任せたい」といった背景を持つ企業は少なくありません。
また、「補助金の申請や給与計算もワンストップで依頼したい」「労務・法務・資金繰りまで相談できる体制がほしい」など、税務以外のニーズを持つケースも多いでしょう。
そのため、税理士を選ぶ前に、まずは「社内のどの業務を自社で担い、どの業務を外部に任せたいのか」を整理することが必要です。
あわせて、「どんな経理体制が自社の今後の成長にふさわしいか」を、経営戦略と照らし合わせて検討しておきましょう。
こうしたビジョンが明確であれば、経理業務のスリム化や効率化が図れるだけでなく、新しく迎える税理士ともスムーズに業務分担や方針を共有できます。
結果として、業務のミスマッチや期待とのギャップを防ぐことができ、長期的に良好な関係を築く土台となります。
税理士との相性や対応姿勢を見極める
税理士の専門性やスキルだけでなく、コミュニケーションのしやすさや対応スタンスも非常に重要なポイントです。
税理士との関係は、1年に1度の決算だけでなく、月次報告、資金繰り相談、助成金や補助金の申請、突発的な税務対応など、日常的なコミュニケーションが発生する「長期的なパートナーシップ」となります。
そのため、知識や経験だけで判断するのではなく、実際に接してみた際の印象や、やり取りの中で感じた対応の丁寧さ、相談しやすさも大きな選定基準となります。
たとえば、初回の面談でこちらの話を最後まで丁寧に聞いてくれるか、専門用語を分かりやすく説明してくれるか、話の途中で結論を急いでしまわないか、といった点もチェックしてみましょう。
また、レスポンスの早さや柔軟な対応力も重要な要素です。
メールやチャットへの返信スピード、資料提出の正確性やタイミング、イレギュラーな対応を依頼した際の反応なども、日々のストレスや業務効率に直結します。
税理士が忙しすぎて連絡がつかない、質問しても回答までに何日もかかるといった状況では、経営判断に遅れが出ることも少なくありません。
さらに、万が一トラブルや税務調査が発生した際に、どのようにサポートしてくれるかも事前に確認しておきたいところです。
過去の調査対応の実績やその際の関わり方、代理人として経営者の立場に立って対応してくれるかなど、信頼関係を築けるかどうかを見極めましょう。
税理士との相性は、「数字」では測れない部分が多いため、感覚的なフィーリングも大切にしつつ、複数の候補と面談して比較することをおすすめします。
成長企業に強い税理士紹介会社を活用する
自社で一から税理士を探すのは、情報収集や面談、比較検討に多大な労力がかかります。
しかも、税理士業界の情報は表に出にくく、「実際に契約してみないと分からない」といった不透明さもつきまといます。
だからこそ、最初の段階でのマッチングを間違えないために、税理士紹介に特化した専門会社を活用することが大きな助けとなります。
特に、成長企業や組織改革を進めている企業にとっては、一般的な紹介サイトよりも、成長フェーズに強い会計事務所とのネットワークを持つ紹介会社に相談することをおすすめします。
事前に丁寧なヒアリングを行い、会社の業種や事業規模、将来の経営ビジョンに合った税理士を厳選して紹介してくれるため、最初から精度の高いマッチングが期待できます。
さらに、紹介会社が間に入ることで、条件交渉や契約内容のすり合わせ、引き継ぎ時の調整もスムーズに進められるため、時間と手間を大幅に削減できるのも大きなメリットです。
また、税理士との相性に不安がある場合でも、途中で相談や再紹介が可能なフォロー体制が整っている紹介会社も多く、安心感があります。
紹介会社を選ぶ際には、成約実績やサポート体制、対応スピード、紹介後のアフターフォローなどもチェックしましょう。
信頼できる紹介会社をパートナーにすれば、税理士選びの成功確率は格段に高まります。
税理士変更は経営のリスタートにもつながる重要な転換点です。
信頼できる紹介パートナーとともに、ポイントを押さえて進めることで、企業にとって最適な税理士と出会える可能性が高まります。
税理士変更の断り方とタイミング|トラブルを避けるための総まとめ
税理士の変更は、企業経営において決して珍しいことではありません。
企業が成長していく過程で、必要とするサービスの質や内容が変化するのは当然のことです。
しかしながら、「長年お世話になった手前、断りづらい」「どう切り出せば角が立たないか分からない」と悩む経営者も多いのが現実です。
まず大前提として、税理士の変更は法律上まったく問題のない行為であり、企業にとって最適なパートナーを選び直す正当な経営判断です。
ただし、その過程で信頼関係に亀裂が入ったり、業務に支障が出たりすることのないよう、「適切なタイミング」と「丁寧な断り方」を意識することが重要です。
たとえば、法人税の申告直後や税務調査の完了後など、業務の一区切りがついたタイミングであれば、引き継ぎもスムーズに行いやすく、トラブルのリスクも低減できます。
反対に、決算期の直前などは、変更によって業務が混乱しやすいため避けた方が賢明です。
また、断り方としては、感情的・否定的な言葉を避け、「会社の今後の方針に合わせた体制づくり」や「新しい経営ステージに必要な専門性」といった前向きな理由を伝えることが大切です。
可能であれば書面で契約終了の意思を明示し、過去の感謝を丁寧に伝えることで、円満に関係を終えることができます。
税理士変更は、経理体制や財務戦略を見直すきっかけにもなります。
慎重な準備と的確な対応によって、トラブルを避けつつ、自社に最もふさわしい税理士との新たなパートナーシップを築いていきましょう。